日本は「ゼネラリスト社会」じゃなく「スペシャリスト社会」?
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「日本の社会はゼネラリストだ!」という話はよく聞く話だと思う。―欧米社会に比べその職の「スペシャリスト」が圧倒的に少ないため、欧米との競争にかてない。―しかし本当にそうなのだろうか、という疑問を抱き調べることにした。
もしゼネラリスト、スペシャリストについて全くわからない場合は「ゼネラリスト」と「スペシャリスト」についてに簡潔に書いておいたので参考になれば。
今回参考にしたのは「ホワイトカラーの人材形成」という本で、2002年発行と少し古い本だが、日米英独との比較によって人材開発の各国を比較している面白い本だ。日本は欧米と比べて「ゼネラリスト社会なのか」というテーマが興味深かった。
日本はジェネラリスト社会?
アメリカやイギリスなどの欧米社会が「スペシャリスト社会」なのに対し、日本は「ゼネラリスト社会」というのは通念となっているが、それは妥当なのか?
これをいくつかの調査結果から考える。ちなみにこれは大卒ホワイトカラーを対象とした研究である。
ゼネラリスト社会肯定派
まず、その通念に肯定的な研究を紹介する。
人間能力開発センター(1979)
この研究は、大企業の部長173人へ「これまでにいくつの職種を経験したか」についてアンケートを行った。その結果、部長クラスの職種経験数は2~3、あるいは4~5が多数派であった。
よって、部長クラスの人々はより幅広く、多くの職能に就いてきたことがわかる。
日本労働研究機構(1993a)
この研究は、大企業640社へ「11部門(職種)の、異動の方針」についてのアンケートを行った。その結果、どの企業も「部門を超えて行う」との回答が、「同一部門内で行う」との回答よりも多かった。
よって、多くの企業が幅広い職種を経験させる、つまりゼネラリスト社会であることを意味する。
ゼネラリスト否定派
次にゼネラリスト社会ではない、という否定的な研究を紹介する。
中村(1992)
従業員100人以上の187社に対して、「職種内中心の異動か、職種間中心の異動か」についてのアンケートを行った。その結果、前者の職能内の異動、すなわち同じ部門内での異動を中心としていると答えた企業が85%近くを占めた。
よって、187社のうち85%近くの企業は、「スペシャリスト社会」であることを意味する。
井上(1982)
日本のある製鉄会社の男子ホワイトカラー1,115人を対象に社内職歴を分析した。すると「職能内の異動」が「職能間の異動」よりも多くなっていることがわかった。
よってこの製鉄会社に限るが、多くの職種を経験するよりも、同じ職種を長く続けていることがわかった。
結果
以上の結果を見ると、「日本が絶対にゼネラリスト社会である」とは言えない、と考えられるだろう。日本全国の全企業を調べたわけではないので、これらの研究結果には完全なる信憑性はないが、他にもいくつかの反例もある。
よって「日本はゼネラリスト社会だ!」という通念は、再度考え直す余地があるだろう。
また、これからはスペシャリストの時代だ~などという話を聞くこともあるが、日本がアメリカよりもスペシャリスト社会であるといったような研究結果も報告されているようだ。
日本生産性本部(1991)
この研究は、日米の大企業の研究開発技術者に対するアンケート調査に基づき、日本555人、アメリカ591人の回答を得ている。
これによると、「研究」と「開発」の両部門を経験するのは、日米ともに珍しい事ではなく、開発従事者で研究を経験したことがあるものは半数以上となった。
また、研究・開発部以外の生産技術や調査・企画などという部門の経験の持ち主は、日本では少ないが、逆にアメリカでは日本に比べて明らかに多いことがわかった。
つまりこの研究で言えば、日本はアメリカよりもスペシャリスト社会であると言えるのだ。
このように、研究によって様々な結果が出ている。よって、一概に日本はゼネラリスト社会だ、スペシャリスト社会だということは出来ない。
本の筆者など
ホワイトカワーの人材形成という本です。
小池 和男(こいけ かずお、1932年 – )は、日本の経済学者。法政大学名誉教授。労働経済学専攻。経済学博士(東京大学、1963年)(学位論文「日本の賃金交渉 -産業別レベルにおける賃金決定機構-」)。新潟県出身。
聞き取りや国際比較を実地に行う研究スタイルや、日本の労働形態を肯定的に強調する立場を取る。1996年に紫綬褒章受章。2009年『日本産業社会の「神話」』で読売・吉野作造賞受賞。
猪木 武徳(いのき たけのり、1945年9月22日 – )は、日本の経済学者。青山学院大学特任教授、国際日本文化研究センター名誉教授、大阪大学名誉教授。専門は、労働経済学・経済思想・経済史。サントリー学芸賞(政治・経済部門)。
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